自身の壮絶な体験を語ることによって、
平和への歩みを呼びかけるナディア・ムラドさん。
彼女は2018年にノーベル平和賞を受賞しました。
彼女の暮らすヤジディ教徒の村をISISが包囲します。
イスラム教への改宗を強要するが信心深い人々は当然拒否。
ISISは、若い女性と幼い男の子以外を虐殺しました。
幼い男の子は洗脳してゆくゆくは自分たちの戦闘員に育てます。
若い女性は性奴隷として扱われることに。
奴隷は人とはみなされません。
イスラム教では、結婚する前の性交渉が認められていません。
ISISは、新しく兵士となる若者をひきつける材料として彼女たちを利用。
ヤジディの女性は人間ではないので罪にはならないと。
女性の尊厳を踏みにじる行為であるとともに、
少数派の宗教に対しての明らかな迫害です。
ナディアは声を上げました。
しかしメディアは興味本位の取り上げ方ばかり。
「どのようにレイプされたのか」
「あなたはどうしたいのか」
彼女が訴えたいのは、彼女個人のことではありません。
これからヤジディはどうしていくのか。
いま難民キャンプでは何が起きているのか。
自分のためにではなく、多くの仲間の未来のために彼女は立ち上がったわけです。
まるでジャンヌダルクのような存在のナディア。
彼女への風当たりは想像を絶する強さだったでしょう。
それは敵だけでなく、味方の方からも吹いていたはずです。
それでも自分の意思を貫いた彼女は本当に強い。
その彼女に対して、国連やカナダの議会が「ありがとう」と感謝します。
これは私たちの日本ではまずできないことでしょう。
人々を救うために宗教はあるはずです。
それなのに世界の各地で、宗教がきっかけとなった争いが絶えません。
一つの正義は、異なる正義を許さないのです。
戦前の日本がそうであったように、
幼い頃から教育によって刷り込まれれば、その正義を疑うことはありません。
人は人を人として尊敬し、大切に扱わなければいけない。
人が人の命を奪うことはどんな理由があっても決して許されない。
これが世界の共通言語として、当たり前になる世の中にしていかなければいけません。
また人の尊厳という点では、難民に対しての日本の対応の遅れも深刻です。
入管での虐待事件もあったように、前時代的なシステムがいまだに通用しています。
世界の国々で、難民の受け入れ枠をきちんと決めることも必要ではないか。
SDGsが声高に叫ばれている現代では、必要なアクションだと感じます。
― 安田菜津紀(フォトジャーナリスト)
***
人権侵害を知らせること自体が難しい、世界を動かすことはもっと難しい。その中で、ナディアさんのような被害者が声を上げることの勇気、困難、希望が凝縮された映画。
― 土井香苗(ヒューマン・ライツ・ ウォッチ(HRW)日本代表)
いくら言葉を尽くしても越えられない「無関心」の壁と闘うナディアさんの底知れぬ悲しみに言葉を失う。それでも前を向く彼女の強さに涙が止まらなかった。
― 長野智子(キャスター)
***
夢、家族、故郷、自由―、一度に全てを失った一人の村娘ナディア。「どこに行って話しをしても、奴隷だった自分しか見えない」。悲しむ人々の代弁者となった彼女の言葉と、遠くを見据える眼差しに、私たちはどう向き合うのだろうか。
― 林典子(写真家)
その他レビュー
https://unitedpeople.jp/nadia/rv